相続後の預金の分け方|引出済み・解約後の精算方法を具体例で解説
相続後に預金が引き出されていても、分ける基準は「死亡日時点の残高」です。残った2,300万円を半分にするのではなく、動いた200万円を踏まえて調整します。
相続後に預金が引き出されている場合、どの金額を基準に分ければよいのかで迷うことがあります。 「預金がすでに引き出されている」「解約したあとの金額で、そのまま分けてよいのか分からない」。この記事では、「死亡日時点」と「解約時」の考え方を整理し、ひとつの事例を最後まで使って、順番に見ていきます。相続税がかかわる場合の、遺産分割協議書への書き方の注意にも触れます。
この記事の内容
・この記事で使う事例
・まず大事なのは、いつの時点の金額で考えるか
・図で確認 死亡日時点で合わせる考え方
・方法① 現金の取得割合で調整する
・方法② 預金の取得割合で調整する
・方法③ 代償金で調整する(代償分割)
・3つの方法の比較
・遺産分割協議書に書くときの注意 相続税がかかわる場合
・精算時の注意点
・ここから先は、計算ではなく判断の話です
・あわせて読む
・まとめ
この記事で使う事例
この先に出てくる金額は、すべてこの事例の数字です。
- 死亡日時点の財産:預金2,000万円+現金500万円=2,500万円
- 相続人:母(配偶者)と子の2人(割合は1:1)
- 本来の取り分:母1,250万円・子1,250万円
- 相続開始後の動き:母が預金から200万円を引き出して使った
- 分割時に残っている財産:預金1,800万円+現金500万円=2,300万円
2,500万円は分ける基準の額、2,300万円は実際に動かせる額、と読み分けてください。 この事例は、相続開始後に預金を引き出して使ってしまった場合の記事と同じケースで、現金500万円がある点だけが違います。使った200万円を含めて全体を整理することに、相続人の間で合意できている場面の話です。合意できない場合の法律上の整理は、次の記事で先に確認できます。
相続開始後、相続人が預金を引き出して使ってしまった場合 ─ 遺産分割・精算での実務対応
まず大事なのは、いつの時点の金額で考えるか
遺産分割のあとに預金や現金を精算するときは、どの時点の金額を基準にするのかを、先にそろえておくことが大切です。 相続開始後に預金が動いていることは少なくありません。口座が凍結される前の引き出し、自動引落しの継続、代表相続人による解約など、さまざまな場面があります。
実務では、死亡日時点の残高で全体額を押さえ、そのあとに動いたお金は別に精算する、という順番で考えると整理しやすくなります。
そのため、残高証明だけでなく、できれば相続開始後から口座が凍結されるまでの通帳の記帳や入出金の履歴も確認しておくと安心です。
図で確認 死亡日時点で合わせる考え方
下の図は、死亡日時点の2,500万円を基準に全体額を考える流れを、そのまま半分にした場合と並べたものです。
- そのまま半分にすると:残っている2,300万円を1,150万円ずつ。母は先の200万円と合わせて1,350万円、子は1,150万円で、200万円の差が出る
- 死亡日時点で合わせると:基準は2,500万円で、1,250万円ずつ。母は先に200万円を受け取った扱いにする。調整のしかたは3つ(現金の取得割合、預金の取得割合、代償金)
本来の取り分は母1,250万円・子1,250万円です。しかし、相続開始後に母が200万円を引き出して使っているため、分割時に残っている財産は2,300万円しかありません。 ここで大切なのは、残っている2,300万円をそのまま半分(1,150万円ずつ)にするのではない、ということです。あくまで死亡日時点の2,500万円を基準にし、すでに動いた200万円を「母が先に受け取った分」として踏まえて調整していきます。 なお、実際の銀行の手続きは、解約時に残っている金額を前提に動きます。この例では預金はすでに200万円減っているため、解約の対象は1,800万円です。 この調整のしかたには、次の3つの方法があります。どれを選んでも、最終的な取得額は同じ1,250万円ずつになります。 ①と②は、遺産そのものの分け方で差をつける方法(現物分割)です。③は、多く受け取る人がほかの相続人にお金を支払って合わせる方法(代償分割)です。
方法① 現金の取得割合で調整する
1つめは、預金は2分の1ずつ分け、遺産の現金の分け方に差をつけて合わせる方法です。相続人の間で、お金の受け渡しはありません。計算の流れは次のとおりです。
- 預金1,800万円 → 900万円ずつ
- 現金500万円 → 母150万円・子350万円(ここで差をつける)
- 分割時の取得額 → 母1,050万円・子1,250万円
- 母は先に200万円を取得済み → 1,050万円+200万円=1,250万円
これで、母・子ともに1,250万円となり、死亡日時点の基準と一致します。あとから現金をやり取りする必要がない点が利点です。ただし、差を埋められるだけの現金が、遺産の中にあることが前提です。
方法② 預金の取得割合で調整する
2つめは、現金は2分の1ずつ分け、預金の分け方に差をつけて合わせる方法です。方法①と同じく、相続人の間でお金の受け渡しはありません。計算の流れは次のとおりです。
- 預金1,800万円 → 母800万円・子1,000万円(ここで差をつける)
- 現金500万円 → 250万円ずつ
- 分割時の取得額 → 母1,050万円・子1,250万円
- 母は先に200万円を取得済み → 1,050万円+200万円=1,250万円
これで、母・子ともに1,250万円になります。現金がなく、預金だけの相続でも使えるのが、この方法の利点です。預金を解約するときは、協議書に書いた金額(または割合)のとおりに分けて受け取ります。 使ってしまった預金の記事で、相続人が合意できる場合の分け方(残っている1,800万円から母800万円・子1,000万円)は、この方法と同じ形です。
方法③ 代償金で調整する(代償分割)
3つめは、預金も現金も2分の1ずつ分け、多く受け取ることになる母が、子にお金を支払って合わせる方法です。この支払いは、遺産分割の中で代償金として扱います(代償分割)。計算の流れは次のとおりです。
- 預金1,800万円 → 900万円ずつ
- 現金500万円 → 250万円ずつ
- 分割時の取得額 → 母1,150万円・子1,150万円
- 母は先に200万円を取得済み → 母は実質1,350万円、子は1,150万円
ここで、基準となる1,250万円と見比べます。母は100万円多く、子は100万円少ない状態です。両者の差は200万円ですが、埋めるべき過不足は、1人あたり100万円と考えます。 そこで、母が子に100万円を代償金として支払うことで、母1,350万円-100万円=1,250万円、子1,150万円+100万円=1,250万円となり、数字が合います。 遺産の分け方を、すべて2分の1ずつとシンプルにできる点が利点です。代償金は、遺産分割協議書に「母は、子に対し、代償金として100万円を支払う」と書いておきます。協議の外で渡すと、相続人の間の贈与と見られることがあります。
3つの方法の比較
下の図は、3つの方法の数字を並べたものです。どの方法でも、最終的に1,250万円ずつに着地します。
- 方法①(現金の取得割合で調整・現物分割):預金は900万円ずつ、現金は母150万円・子350万円。お金のやり取りはいらない。差を埋められるだけの現金があることが前提
- 方法②(預金の取得割合で調整・現物分割):預金は母800万円・子1,000万円、現金は250万円ずつ。お金のやり取りはいらない。現金がない相続でも使える
- 方法③(代償金で調整・代償分割):預金・現金とも2分の1ずつ。母が子に代償金100万円を支払う。分け方はシンプルだが、代償金の支払いと、協議書への記載が要る
現金の有無や額、相続人の人数、預金の解約を誰が担うかによって、どれが使いやすいかは変わります。お金のやり取りをしたくなければ①か②、分け方をシンプルにしたければ③、という選び方もできます。
遺産分割協議書に書くときの注意 相続税がかかわる場合
ここまでの3つの方法は、実際にお金をどう受け渡すかという、分け方の話です。相続税の申告が必要な場合は、それを遺産分割協議書にどう書くかにも注意が要ります。この事例の預金と現金だけなら相続税はかかりませんが、自宅などほかの財産と合わせて申告が必要になる場合として読んでください。
相続税は、預金なら死亡日時点の残高で計算します。そのため、死亡日時点の残高と解約時の残高が違うときは、その差をどう分けたかが、税務上は大事になります。
協議書には、死亡日時点の2,000万円を前提に、「母が相続開始後に払い戻した200万円は、母が取得したものとする」のように、先に引き出した分の扱いまで書いておきます。残っている1,800万円の分け方だけを書くと、この200万円の行き先が協議書から読めず、申告の数字とつながらなくなるためです。3つの方法を死亡日時点の数字で見ると、次のとおりです。
- 方法①:預金2,000万円は母1,100万円(先に引き出した200万円を含む)・子900万円、現金は母150万円・子350万円
- 方法②:預金2,000万円は1,000万円ずつ(母の分は先に引き出した200万円を含む)、現金は250万円ずつ
- 方法③:預金2,000万円は母1,100万円(先に引き出した200万円を含む)・子900万円、現金は250万円ずつ。これに加えて、母が子に代償金100万円を支払う
どの方法でも、死亡日時点で見た取得額は母・子とも1,250万円です(方法③は、代償金を支払う母から100万円を差し引き、受け取る子に100万円を加えます)。方法②は、死亡日時点で見ると「預金は2分の1ずつ」なので、協議書に「2分の1ずつ」とだけ書くと、金融機関は解約時の1,800万円を900万円ずつに分けてしまいます。どの時点の残高を前提にした数字かを、書き添えておきます。 協議書の記載例は、動いた200万円が葬儀費用だった事例で、次の記事にまとめています(葬儀費用のような必要な支出だった場合の扱いも、こちらで見ています)。預金を金額で書くか割合で書くかは、その次の記事で整理しています。
葬儀費用を預金から払ったときの遺産分割協議書|相続開始時の残高で書く理由と記載例
遺産分割協議書に預金額を記載しないのですか?|金額と割合の使い分け
精算時の注意点
- 何を基準にした数字か(死亡日時点か、解約時か)を、相続人全員でそろえておく
- 先に動いたお金が、生活費・葬儀費用・立替払いなのか、自分の取得分なのかを分けて考える
- 精算の理由と計算の流れを、メモや一覧表で残しておく
- 協議書には、先に引き出した分の扱いと、代償金まで書いておく(代償金を協議の外で渡すと、相続人の間の贈与と見られることがある)
- 相続税がかかわる場合は、協議書の書き方を、申告を担当する税理士とも確認しておく
相続開始後に預金が動いている場合は、残高だけを見るのではなく、そのあとの動きまで含めて整理することが大切です。「何を基準にするか」がそろうだけでも、話し合いはかなり進めやすくなります。
ここから先は、計算ではなく判断の話です
数字の合わせ方は、以上のとおりです。 ただ、実際のご相談で決着がつかないのは、計算方法ではありません。「引き出した分を、どこまで戻すのか」で気持ちが折り合わない、という段階の方がとても多いのです。
- 入院費や葬儀費用に充てた分を、遺産に戻すのか、必要な支出として扱うのか
- 介護をしていた方の引き出しを、どこまで区別するのか
- 領収書が残っていない分を、どう扱うと全員が納得できるのか
ここは計算の話ではなく、判断の話です。当事務所では、数字を先に出すのではなく、ご家族が納得できる線をどこに引くかを整理したうえで、精算の形を組み立てます。全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例で確かめられます。
あわせて読む
- 預金の整理の全体像:相続開始前・死亡当日・相続開始後の時間の流れで、見る記事を振り分けています
- 葬儀費用は誰が払うか:葬儀費用の負担・合意・記録・精算を整理しています
相続開始前後・当日の預金の整理|相続で迷いやすいお金の動きを時間の流れで整理
葬儀費用は誰が払う? ― 相続であとから揉めないために知っておきたいこと ―
まとめ
- 相続後に預金が動いていても、まず死亡日時点の残高(2,500万円)で全体額を押さえる
- 残っている2,300万円をそのまま半分にするのではなく、動いた200万円を踏まえて調整する
- 調整の方法は3つ。現金の取得割合で差をつけるか、預金の取得割合で差をつけるか(ここまでが現物分割)、代償金を支払うか(代償分割)
- どの方法でも、最終的な取得額は1,250万円ずつで一致する
- 相続税がかかわる場合、協議書は死亡日時点の残高を前提に書き、先に引き出した200万円を誰が取得したかまで残す
- 先に動いたお金が自分のための消費か、必要な支出かで、扱い方が変わる
何を基準に、どう精算するかが決まらない段階でも、ご相談いただけます。相続税がかかわる場合は、協議書の書き方も含めて、税理士と連携して整理します。初回のご相談は無料です。
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